なぜ値上げが進まないのか?物流業界の本質的な原因とは
2024年問題や昨今の原価高騰に伴い、自助努力では対応できないような物価上昇、コスト増により日本全体が値上げ基調となっています。毎月、食料品をはじめとする私たちの身近な商品は有無を言わさず値上げが進んでいます。一方で運賃に関しては、物流企業が荷主企業へ何度も交渉し、説明の実施や値上げの根拠となる資料を開示し、やっと値上げの承認が得られるといった状況です。場合によっては、値上げを突き返されることもあったでしょう。
中小企業庁では半年に1回(毎年3月と9月)、価格交渉における実態調査を行っています。直近では2026年6月28日に3月の調査結果が公開されています。過去の調査結果の推移と共に運送業界の値上げ状況について見ていきます。
目次
賃上げの前提となる「価格転嫁」の現在地
最低賃金が、2030年代前半までに全国平均の時給を1,500円までに引き上げると政府の発表がありました(現時点では全国平均1,121円)。この賃上げを実現するためには、適切な価格交渉が実現されなければなりません。
中小企業庁が行っている調査の最新情報(2026年3月調査)では、全産業平均の価格転嫁率は54.2%でした。価格転嫁率とは、例えばコストが100円上がったとします。そのうち54.2円が取引先に値上げを認めてもらい、残り45.8円は“自助努力でコスト上昇分も吸収”という状態を示します。一方で物流業界はどのような状況でしょうか。以下のグラフを見ると物流業界の価格転嫁率の低さが一目瞭然です。
※中小企業庁公表 価格交渉促進月間フォローアップ調査をもとに弊社で独自作成
図のグラフを見ると、全産業は緩やかに右肩上りで価格転嫁率が上昇しています。一方でトラック運送業界は明らかに全産業より低い価格転嫁率です。約30ある業種のうち毎回の調査でトラック運送業界の価格転嫁率は最下位に位置しています。2022年9月、2023年3月の調査では、全産業平均と比較して約2.3倍もの差が開いています。その後2024年問題の始まりにあたり価格転嫁率が上昇しましたが、直近半年の結果は下方傾向です。
価格転嫁が進まない本質的な原因――多重下請け構造
なぜ、物流業界(トラック運送業)の価格転嫁率が低いのでしょうか。それは、物流業界特有の多重下請け構造が要因の一つとして考えられます。トラック運送業界の価格転嫁率は最新の結果では、34.5%となっています。実運送を担っている企業が元請けの企業に対して、「燃料費や人件費が高騰しているので運賃を上げてほしい」という話があったとします。前段の例と同じようにコスト上昇分は100円と仮定します。本来であれば元請け企業はこの原価高騰分を支払うべきですが、「コストが上昇したのは理解できるが、値上げできるのは34.5円(トラック運送業界の価格転嫁率)」といった回答です。
これは、元請け企業と荷主企業間で値上げが進んでいない、求めている値上げ額に満たしていない、結果、実運送会社へ回す原資がないということになります。当然、価格転嫁率100%というのは、現実的ではないかもしれませんが、全産業と比較してもトラック運送業界の価格転嫁率が圧倒的に低いという事実を改めて認識する必要があります。
適正原価導入を見据えて、いま取り組むべきこと
物効法での荷待ち荷役時間短縮、積載効率向上の取り組みも重要ですが、適切な運賃収受というのが大前提にあります。2028年施行予定の適正原価導入へ向けて、自社の運賃レベルと現時点でのベースとなる標準的運賃の差額を把握しながら、将来を見据えたコスト増、予算確保、全体最適を見据えたサプライチェーンの見直しを進めてみてはいかがでしょうか。
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